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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和51年(ワ)290号 判決 1980年11月13日

原告

山田慶次郎

ほか一名

被告

株式会社まるはベニヤ商店

ほか一名

主文

被告らは各自、原告山田慶次郎に対し、金八八三万九、五〇二円及び内金八〇三万九、五〇二円に対する昭和四七年四月六日以降支払済まで年五分の割合による金員を、原告阪神スバル自動車株式会社に対し、金一三七万七、〇三三円及び内金一二七万七、〇三三円に対する昭和五一年七月九日以降支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告山田慶次郎のその余の請求を棄却する。

訴訟費用中、原告山田と被告らとの間に生じたものはこれを三分し、その二を原告山田慶次郎の負担とし、その余を被告らの負担とし、原告会社と被告らとの間に生じたものは被告らの負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告山田慶次郎に対し、金三、〇六〇万五、五六五円および内金二、八六〇万五、五六五円に対する昭和四七年四月六日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告阪神スバル自動車株式会社に対し、金一三七万七、〇三三円および内金一二七万七、〇三三円に対する昭和五一年七月九日から支払済まで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告山田慶次郎は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一) 日時 昭和四七年四月五日午前九時五七分頃

(二) 場所 芦屋市打出町一の一〇 国道四三号線打出交差点

(三) 加害車 普通貨物自動車(神戸四四そ五七三七号)

右運転者 林希工

(四) 被害車 軽四輪自動車(八神戸に八四〇八号)

右運転者 原告山田

(五) 態様 右交差点内を北から南に向け、青信号に従つて、直進中の被害車の右側面に、南から東に向け右折してきた加害車が衝突した。

2  被告らの責任

(一) 被告株式会社まるはベニヤ商店(以下、被告会社という。)

(1) 運行供用者責任(自賠法三条)

被告会社は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供している。

(2) 使用者責任(民法七一五条一項本文)

本件交差点は、東西に走る幅員約四六メートルの国道四三号線と南北に走る幅員約一〇メートルの道路が変則的に交差し、交差点中央に阪神高速道路の直径約四メートルの橋脚が設置されているのであるから、加害車運転の訴外林希工は、南から東に右折するに際し、右橋脚の西側を大廻りして徐行しながら東へ方向転換した後、交差点中央で一旦停止し、北から南へ青信号に従つて本件交差点に進入する車両の有無を確かめ、その進行妨害にならないように前側方の交通の安全を確認したうえで東方に発進するべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と時速約六〇キロメートルで進入した過失により本件事故を発生させた。

被告会社は、林希工を雇用しているところ、同人が被告会社の業務に従事して加害車を運転中、右の過失により本件事故を発生させたものであるから、被告会社は、使用者責任を負わねばならない。

(二) 被告灰原功枝(代理監督者責任民法七一五条二項)

被告灰原は、被告会社の代表取締役であり、使用者に代つて事業を監督していた。

即ち、被告会社は、被告灰原の個人事業を法人化して昭和三八年七月一日に設立され、従業員数も十四、五名であり、設立以来被告灰原が代表取締役に就任し、本件事故当時同被告の妻と義兄も取締役で、株式も同被告ら同族で保有し、被告会社所在地と被告灰原住所地が同一である等、その実態は被告灰原の個人企業であつて、同被告が従業員の採用決定をし、毎朝従業員を集めて当日の営業予定の指示、行動範囲の決定を行ない、注文高、売上高、配達先等の具体的な把握をし、従業員の能力、性格等を知悉していたものである。

よつて、被告灰原は、被告会社の被用者による本件事故につき、代理監督者としての責任を負わねばならない。

3  原告山田の傷害

(一) 傷害 頭部及び頸部外傷

(二) 治療経過

(1) 芦屋市若宮町所在冨永外科医院

通院 昭和四七年四月五日から翌六日まで(実日数二日)

(2) 西宮市染殿町所在西宮市立中央病院

通院 同月七日から同月一八日まで(実日数五日)

入院 同月二二日から同年五月二四日まで(三三日)

(3) 同市田中町所在保坂診療所

通院 同年四月一三日(実日数一日)

(4) 同市寿町所在佐藤病院

入院 昭和四七年五月二七日から同年九月一日(九八日)

通院 同月二日から同年一一月二七日まで(実日数四二日)

入院 昭和四八年九月四日から昭和四九年四月三日まで(二一二日)

(5) 神戸市葺合区篭池通一丁目所在石見医院

通院 昭和四七年一一月一〇日から同月二四日まで(実日数六日)

(6) 神戸市生田区楠町所在神戸大学医学部附属病院(以下神大病院という。)

通院

脳神経外科 昭和四七年一一月二八日から昭和四八年九月三日まで(実日数三九日)

昭和四九年四月二日から昭和五〇年八月三一日まで(実日数四二日)

眼科 昭和四七年一一月二九日から昭和四八年七月三日まで(実日数一五日)

整形外科 昭和四八年八月二五日から昭和五〇年八月三一日まで(実日数一七日)

(7) 神戸市垂水区旭ケ丘二丁目所在河野心療内科医院

通院 昭和五〇年二月七日から同年八月三〇日まで(実日数二四日)

(三) 後遺症 外傷性頸部症候群(頭部外傷Ⅰ型頸椎捻挫)、両眼調節力麻痺(自賠法施行令別表後遺障害別等級表第七級三号該当)の後遺症が残存して昭和五〇年八月三一日に症状が固定した。具体的症状は次のとおりである。

(1) 脳神経外科的所見

神経系統では自律神経失調症による耳鳴・めまい感・手足のしびれ感・体の浮動感などが著明。精神系統では情動面の不安定が著明で、更にうつ的状態を示しており、易疲労性で作業能力が薯明に低下している。障害程度「神経系統の機能及び精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に相当する。

(2) 整形外科的所見

頸部の運動制限及び運動時痛。左上腕神経叢の圧痛プラス。頸椎第四棘突起の圧痛。レ線学的にC3-4、C4-5に椎間板性変性を思わせる骨刺形成あり。頸椎では軽度の退行変性像をみる。頸部運動障害の程度―前・後・左・右屈各三〇度、左回旋六〇度、右回旋七〇度。

(3) 眼科的所見

自覚的には両眼眼性疲労が著明。他覚的には右眼視力〇・六(矯正視力一・〇)、左眼視力〇・五(同一・〇)。調節機能は両眼調節力不全マヒを認める。

4  原告山田の損害

同原告の損害は、次のとおり金三、四〇七万七、四一八円となる。

(一) 治療費 金七万円

(1) 石見医院治療費 金一万八、七〇〇円

(2) 佐藤病院差額ベツド代 金一万三、五〇〇円

一日当り金五〇〇円の割合による二七日分

(3) 眼鏡代 金三万七、八〇〇円

視力矯正のため病院の処方箋により装着したものであるが、本件事故による受傷を原因とする発作の際に倒れて、一個破損したため二個購入することを要した。

(二) 付添看護費 金二三万四、〇〇〇円

同原告の妻が、昭和四七年五月二七日から同年九月一日まで及び昭和四八年九月四日から同年一〇月三一日まで同原告の付添看護をし、その一日当りの対価相当額金一、五〇〇円の割合による一五六日分

(三) 通院交通費 金一六万一、三二〇円

昭和四七年四月一九日から昭和五〇年八月三一日までの通院に際し要した交通費

(四) 入院雑費 金一七万一、五〇〇円

一日当り金五〇〇円の割合による三四三日分

(五) 休業損害 金六二三万〇、一一八円

原告山田は、本件事故当時、原告阪神スバル自動車株式会社(以下、原告会社という。)に勤務していたが、昭和四七年四月から昭和五〇年八月までの間、本件事故による休業をせずに現実に就労していれば得ることのできた賃金は、左記のとおり合計金六二三万〇、一一八円である。

昭和四七年四月から昭和四八年三月まで 金一二五万八、六七六円

同年四月から昭和四九年三月まで 金一六七万九、六九〇円

同年四月から昭和五〇年三月まで 金二二〇万四、五一一円

同年四月から同月八月まで 金一〇八万七、二四一円

(六) 逸失利益 金一、八二一万〇、四八〇円

同原告の前記後遺症の程度、年齢(症状固定当時四二歳)等に照らすと、同原告は、労働能力の五六パーセントをその症状固定日の翌日である昭和五〇年九月一日から一〇年間喪失すると推定されるので、前記昭和五〇年四月から同年八月までに支給を受けるべき賃金の一か月当り平均金二一万七、四四九円を基礎とし、年五分の割合による中間利息を控除する年別ホフマン式計算法により、同原告の後遺症に基づく逸失利益の同日現在の現価を算出すると次のとおりとなる。

21万7,449円×12月×0.56×12.4622=1,821万0,480円

(七) 慰藉料 金七〇〇万円

(1) 入通院期間慰藉料 金二〇〇万円

(2) 後遺症慰藉料 金五〇〇万円

(八) 弁護士費用 金二〇〇万円

5  同原告の損害填補 金三四六万一、五六七円

同原告は、労災保険から休業補償として金二一八万四、五三四円を支給され、使用者である原告会社から原告山田の最低生活の維持のため更に金一二七万七、〇三三円を被告らの本件債務の弁済として受領した。

よつて、同原告の損害は、前記の総損害から右の金三四六万一、五六七円を控除した金三、〇六一万五、八五一円となる。

6  原告会社の損害 金一三七万七、〇三三円

(一) 休業補償差額支払分 金一二七万七、〇三三円

前記のとおり、治療期間中労災保険から原告山田の平均賃金の六割相当分が同原告に支給されたが、同原告の最低生活の維持のために、右給付金以外に、使用者である原告会社が第三者として、被告らの損害賠償債務のうち左記のとおり金一二七万七、〇三三円を弁済した。

昭和四七年四月から同年一二月まで 金二三万七、九二九円

昭和四八年一月から同年一二月まで 金三三万八、二三八円

昭和四九年一月から同年一二月まで 金三九万八、七四八円

昭和五〇年一月から同年八月まで 金三〇万二、一一八円

本件事故は原告山田の勤務中のものであり、同原告の負傷は業務上の負傷であるから、同原告の使用者である原告会社は、同原告に対し、労働基準法七五ないし七七条により療養補償、休業補償等をする義務を負うから、原告会社は、右の弁済をなすにつき正当の利益を有し、右弁済により当然債権者である原告山田に代位し、被告らに対する同額の損害賠償請求権を取得した。

右代位が認められないとしても、原告会社が原告山田に右金員を支給したことにより、被告らは、その限度で損害賠償債務を免れたから、原告会社は、被告らに対し、不当利得返還請求権を有する。

(二) 弁護士費用 金一〇万円

7  よつて、原告山田は、被告らに対し、各自前記損害金のうち金三、〇六〇万五、五六五円及び内金二、八六〇万五、五六五円に対し不法行為の翌日である昭和四七年四月六日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、また原告会社は、被告らに対し、各自金一三七万七、〇三三円及び内金一二七万七、〇三三円に対する本訴状送達の翌日である昭和五一年七月九日から支払済まで右と同率の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の各事実は認める。

2  同2につき

(一)の(1)の事実は認める。

(一)の(2)の事実のうち、本件事故現場の状況、被告会社が使用者責任を負うこと、林希工に前側方不注視一時停止懈怠、右折不適の過失があつたことは認めるが、その具体的態様は否認する。

(二)の事実のうち、被告灰原が被告会社の代表取締役であることは認めるが、その余は争う。

3  同3、4の事実は争う。

本件事故は、双方の車両が時速約二〇キロメートルの低速度で除行中に接触したものであり、原告山田も衝突直前に加害車に気づいて身構えていたのであるから、同原告が本件事故によりその主張のような外傷性頸部症候群の受傷をしたとは考えられない。

仮に、事故後長期に亘り治療を要し、かつ後遺障害七級に該当する後遺症を残したとしても、同原告が転医を繰り返し、医師の指示に従つて治療に専念しなかつたことによるか、事故前に頸椎等に経年性変化が存在していたか、あるいは全くの心因的因子にもとづくものである。そもそも、同原告には特段の他覚的所見は認められず、頭痛、頸部痛等の愁訴は専ら心因性のものである。したがつて、同原告の前記傷害、損害は、本件事故と相当因果関係を有しない。

4  同5の事実のうち、同原告が労災保険から休業補償として金二〇五万八、〇〇〇円を支給されたことは認め、その余は争う。

なお、本訴請求外であるが、労災保険から療養補償金二一八万四、五三四円、自賠責保険から治療費金四八万六、八一二円がそれぞれ病院へ支払われている。

5  同6の事実は争う。原告会社が使用者として労働基準法に基づき原告山田に支払わねばならない休業補償は、平均賃金の百分の六十であるところ、右は既に労災保険から支払われているのであるから、原告会社に支払義務はない。よつて代位もできないし、不当利得でもない。

三  抗弁

1  公平の理念に基づく減額

仮に、本件事故と原告山田の受傷ないし損害との間に因果関係があるとしても、同原告が元来有していた人格的、肉体的特異性のために損害が拡大したことが明らかであるから、公平の理念に照らし、いわゆる「寄与度による割合的認定」が採用されて、損害額の減額をすべきである。

2  過失相殺

本件事故現場の状況からすれば、南進を開始した原告山田は、前方を北進して右折東進しようとした加害車を十分に見通すことができたのであるから、同原告が前方注視をして右折車の動静に注意していれば事故は防ぎえたものであり、またかかる注意義務があつたにもかかわらず、前方注視を怠り、先行車に追随して漫然と南進し、加害車を発見しても警笛を鳴らしたり、左右に避譲することもせずに直進したために本件事故が起きたのであるから、同原告にも過失がある。

3  損害填補

原告山田は、労災保険から療養補償金二一八万四、五三四円、休業補償金二〇五万八、〇〇〇円、障害年金一九一万七、九七三円、自賠責保険から病院費用として金四八万六、八一二円の支払を受けた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は争う。

2  抗弁2の事実は否認する。

原告山田は、本件事故現場の交差点に進入するに際し、先行車に続いて発進し、停止線のところで前方左右の交通の安全確認をした際、前記橋脚の右側(西側)に加害車を認めたので、前車(先行車)との間隔と大阪行きの左折車に注意した後、再び右方(東方)の交通の安全確認をしようとしたところ、加害車が時速約六〇キロメートルで向つてきており、ブレーキを踏むいとまもなく、自車右側面に衝突されたものであつて、本件事故は、林希工の一方的過失に起因するものである。

3  抗弁3の事実のうち、休業補償として金二〇五万八、〇〇〇円を受領したことは認め、その余は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  本件事故の態様及び過失割合

本件交差点は、東西に走る幅員約四六メートルの国道四三号線と南北に走る幅員約一〇メートルの道路が変則的に交差し、交差点中央に阪神高速道路の直径約四メートルの橋脚が設置されていることは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一、二、一四号証、原告山田本人の供述(以下原告の供述という。)により真正に成立したと認める甲第一七号証、証人林希工の証言、原告本人の供述によれば、次の事実が認められる。

同原告は、昭和四七年四月五日午前九時五七分頃、原告会社所有にかかる被害車を運転して、幅員約一〇メートルの道路を南進して信号機により交通整理の行なわれている概ね別紙図面の状況の本件交差点にさしかかつたところ、信号が赤になつたために南行二列の右側(西側)の先頭車の次に停車した。一方、加害車を運転して右道路を対向北進して本件交差点にさしかかつた林希工も赤信号に従つて先頭に停車した。そして、信号が赤から青に変わるや、同人は時速約二〇キロメートルで発進し、右折しようと交差点中央にある前記橋脚の北西まで進行したところ、直進(南進)する二台の車が加害車の前方を通過したのを見てその動向等に気をとられ、脇見をしたまま、徐行もせず、また、一旦停止もせずに漫然と同一速度で右折を続けて右橋脚の真北に来た。そこで、初めて先行車に続いて毎時約二〇キロメートルで直進してきた原告山田運転の被害車を数メートル前方に発見して急ブレーキをかけたが間に合わず、被害車の右前部に加害車の左前部を衝突させた。他方、原告山田は、被害車を運転して別紙図面の状況の本件交差点で赤信号のために南行二列の右側(西側)の先頭車の次に停車した後、青信号に従つて、前車に引続き時速約二〇キロメートルで発進し、停止線のところで右方(西方)の交通の安全を確認したところ、前記橋脚の西側付近に加害車を認めたこと、その後は前車との車間距離や東行の左折車に気をとられているうちに、加害車が被害車の直前に接近し、同原告が危険を感じてハンドル、ブレーキ操作をするいとまもなく被害車右側部に加害車前部が衝突した。以上の事実が認められる。もつとも、原告本人の供述中には加害車の速度は時速約六〇キロメートルであるとの同原告の主張に沿う供述があるが、前掲各証拠に照らした易く措信できず、その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実によれば、本件交差点を南から東へ右折するにあたつては徐行し、交差点中央で一旦停止して、青信号に従つて右交差点を北から南へ直進する車両の進行を妨害しないように、自車前方左側の直進車の有無及び動静に十分注視して、その安全を確認したうえで進行しなければならない注意義務があるにも拘らず、林希工は、これを怠り、脇見をしながら漫然と同一速度で進行した過失により、本件事故を惹起したことが明らかである。

また、他方、交差点内を通行するときは、当該交差点の状況(特に本件交差点が別紙図面のとおり変形交差点であること)に応じ、反対方向から進行し右折する車両等の動静に注意し、できるだけ安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務があるにも拘らず、原告山田はこれを怠り、右折車である加害車の動向に十分注意することなく漫然と先行車に追従して進行したことが明らかであるから、林希工の前記過失と同原告の右過失が競合して本件事故を惹起したものと認められ、その過失割合は林希工が八割、同原告が二割と認めるのが相当である。

三  被告らの責任

請求原因2の(一)の(1)の事実は、当事者間に争いがない。そうすると、被告会社は、本件事故に基づく損害について自賠法三条による運行供用者責任を負わなければならない。

次に、被告灰原の代理監督者責任について検討するに、林希工が被告会社の被用者であり、被告会社の業務に従事中同人の前記過失により本件事故を惹起したこと、被告灰原が被告会社の代表取締役であることは、当事者間に争いがなく、かつ成立に争いのない甲第一九ないし第二一号証、証人和田紀夫の証言及び被告会社代表者兼被告灰原功枝本人尋問の結果(以下被告本人の供述という。)によれば、請求原因2の(二)の事実がすべて認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、被告灰原は、被告会社の代表取締役であつて、現実に被用者の選任及び事業の監督を担当していたと解すべきであるから、林希工の起こした本件事故に基づく損害について代理監督者責任を負わなければならない(最高裁判所昭和四二年五月三〇日第三小法延判決、民集二一巻四号九六一頁参照)。

四  原告山田の傷害

成立に争いのない甲第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一ないし六、第七号証の一、二、第八号証、第九号証の一ないし三、乙第二ないし第七号証、第八号証の一、二、証人山田尚子、同白方誠弥、同宇野喜晴の各証言及び原告本人の供述によれば、次の事実が認められ、他に左記認定を左右するに足る証拠はない。

1  受傷と治療経過

原告山田は、本件事故当時三九才で、健康な身体を有していたが、昭和四七年四月五日、本件事故により右側頭部を車の窓枠にぶつける等して頸部損傷、頭部打撲の傷害を受けて、同日から二日間冨永外科病院で治療を受けた。事故後しばらくしてから頭頸部痛を自覚し、同月七日から同月一八日まで(実日数五日)西宮市立中央病院で頭頸部打撲後遺症との診断を受けて通院治療を受け、(同月一九日保坂診療所に通院)同月二二日から翌月二四日まで(三三日)入院治療を受けた。同病院において脳波も略正常で他覚的に異常は認められず、頭頸部痛、めまい等の自覚症状はいくらか軽快した。ところが同病院で個室から大部屋に転室を促がされたので、これを機に退院し、昭和四七年五月二七日から同年九月一日まで(九八日)佐藤病院で頸部挫傷との診断を受けて入院治療を受けた、佐藤病院において後頭部から頂部にかけ鈍痛、右側頭麻痺等の自覚症状があつたが、軽快して退院後、同年九月二日から同年一一月二七日まで(来日数四三日)通院治療を受けた。そして、その間、同年九月一一日から復職したが、当初は良好であつたものの次第に症状が悪化して休みがちになり、同年一一月一〇日から同月二四日まで(実日数七日)石見医院で外傷性頸部症候群との診断を受けて通院治療を受けた。同病院では、自律神経機能検査で軽度の異常が認められ、当初頭痛、頸痛、悪心、めまい、集中力、記憶力の低下等の自覚症状があつたところ、治療により、頭痛、集中力の低下を残す程度に軽快した。しかし、仕事をすると頭痛がおこり長続きしないため、同年一一月下旬、再び休職することとし、同月二八日から神大病院で通院治療を受けることとし、脳神経外科で同日から昭和五〇年八月三一日まで(実日数七一日)、眼科で昭和四七年一一月二九日から昭和四八年七月三日まで(実日数一五日)、整形外科で昭和四八年八月二五日から昭和五〇年八月三一日まで(実日数一七日)通院治療を受けた。その間症状が軽快して、昭和四八年六月初め、原告山田は、半日勤務の形態で復職したが、依然として頭痛等のため休みがちになり、同年七月一〇日頃に、後頭部を締めつけられ全身がしびれるような発作を起こして倒れ、以来再び休職した。同年九月四日にもまた発作を起こして佐藤病院に入院した。同日以来、手足のしびれ、頭痛、歩行困難となり、昭和四九年四月三日まで(二一二日)、外傷性頸部症候群、後頭神経痛、自律神経失調症の病名で入院治療を受けた。その後、神大病院で前記の治療を受け、同病院の指示により昭和五〇年二月七日から同年八月三〇日まで(実日数二四日)河野心療内科医院で通院治療を受けた。なお、前記神大病院各科における自覚症状及び他覚症状は、次のとおりである。

脳神経外科的所見

頭痛、頭重感、頸部痛、耳鳴、めまい、手足のしびれ感、腰部痛、失神様発作、不安感、易疲労性のため労働に従事しえない等の自覚症状を訴えたが、神経学的検査では片麻痺など運動機能の低下は認められず、頭部単純X線所見には異常を認めず、脳波は境界域から軽度異常を示し、精神身体医学的所見では情動面の不安定が著明で、うつ的状態を示し作業能力が著明に低下し、自律神経系の異常が認められた。

整形外科的所見

頸部の運動制限及び運動時痛、左上腕神経叢の圧痛、頸椎第四棘突起の圧痛、X線学的に、C3-4、C4-5椎間板性変性を思わせる骨棘形成あり、頸椎では軽度の退行変性像が認められた。

眼科的所見

両眼眼精疲労の自覚症状があつたが、右眼視力〇・六、左眼視力〇・五、両眼視野正常で前眼部、中間透光体眼底著変を認めないが、調節機能は両眼調節力不全麻痺が認められた。

2  後遺症

原告山田は、以上のとおり治療を受けたが完治せず、昭和五〇年八月三一日、外傷性頸部症候群(頭部外傷Ⅱ型、頸椎捻挫)、両眼調節力不全麻痺の後遺症が残つて症状が固定した。その詳細は、次のとおりである。

脳神経外科的所見

神経系統では、自律神経失調による耳鳴、めまい感、手足のしびれ感、体の浮動感が著明で、うつ的状態を示しており、易疲労性で作業能力が著明に低下しており、右障害程度は「神経系統の機能及び精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に相当する。

整形外科的所見及び眼科的所見は、前述のとおりである。右の後遺症は、いわゆるむち打症であるというべく、これは、自賠法施行令別表後遺障害別等級表第七級に該当する。

なお、被告らは、本件事故と原告山田の受傷ないし後遺症との因果関係を争うが、前記認定の本件事故の態様にかんがみれば、被害者たる同原告にいわゆるむち打症が惹起することは経験則上十分考えられるところであり、同原告に本件事故前には、健康体であつて、かかる症状は一切なく、またその原因となるものもうかがわれなかつたにも拘らず、事故後すぐに前記のような症状が発現したことからして同原告の受傷ないし後遺症は、本件事故により生じたものと推認するのが相当であつて、被告らの右主張は採用できない。

五  原告山田の損害

(一)  治療費

(1)  石見医院治療費

前掲甲第七号証の一、二によれば、原告山田は、石見医院で、外傷性頸部症候群の治療のために、前記のとおり六日間通院し、静脈注射等の処置を受けて一万八、七〇〇円を支払つたことが認められる。

(2)  佐藤病院差額ベツド代

原告本人の供述により真正に成立したと認める甲第一五号証及び原告本人の供述によれば、同原告は、昭和四八年九月四日発作のため佐藤病院に入院してから同月三〇日まで特別室を使用し、差額ベツド代として一日当り五〇〇円の割合で一万三、五〇〇円を支払つたことが認められる。右は前記認定にかかる入院当時の同原告の症状に照らせば、治療ないし看護の必要上相当な範囲内にあると認められる。

(3)  眼鏡代

原告本人の供述により真正に成立したと認める甲第一三号証、前掲乙第八号証の一、二、原告本人の供述によれば、同原告は、本件事故後目がかすみ、両眼調節力麻痺のために、神大病院眼科医の指示により、その処方箋に従つて眼鏡を装着しなければならなくなつたこと、事故後しばしば起きる発作のため一個破損し、結局同じ眼鏡を二個購入することをよぎなくされ、その代金として合計三万七、八〇〇円を支払つたことが認められる。

(4)  よつて、治療関係費は、合計七万円となる。

(二)  付添看護費

成立に争いのない甲第一一号証の一ないし三、前掲甲第六号証の一、三、五、証人山田尚子の証言、原告本人の供述によれば、同原告の妻である山田尚子が、昭和四七年五月二七日から同年九月一日まで及び昭和四八年九月四日から同年一〇月三一日まで一五六日間に亘つて同原告の付添看護をしたこと、右は同原告の症状からして付添を要する旨の医師の意見によりなされたことが認められるところ、同原告の右傷害の程度等を考慮すると、付添看護費は経験則上一日当り一、二〇〇円の割合による一八万七、二〇〇円となる。

(三)  通院交通費

原告本人の供述により真正に成立したと認める甲第一六号証及び原告本人の供述によれば、同原告は、昭和四七年四月一九日から昭和五〇年八月三一日までの前記各病院への通院に際し、電車、バス、タクシー等の交通機関を利用したこと、右の交通費として一五万九、九七〇円を支払つたことが認められるところ、右タクシー代の占める割合は必ずしも少なくないが、原告山田の歩行困難を含む前記症状、タクシー利用区間が近距離に限られていること等を考えあわせれば、右タクシー利用もやむをえないというべきであるから、右金額を損害と認めるのが相当である。

(四)  入院雑費

原告山田の前記傷害の程度、入院期間等を考慮すると、経験則上一日当り三〇〇円の割合による三四三日分の合計一〇万二、九〇〇円の入院雑費を要したと認めるのが相当である。

(五)  休業損害

証人宇野喜晴の証言により真正に成立したと認める甲第一二号証の一、証人宇野喜晴の証言及び原告本人の供述ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、他に左記認定を左右するに足る証拠はない。

原告山田は、昭和七年九月一八日出生した健康な男子で、昭和四六年一月原告会社に事務員として入社、以来営業部に属し、勤務成績も良好で昭和四七年四月一日主任補に昇格したが、同月五日に本件事故にあつて以来休業していること(但し、前記認定のとおり途中一時復職)、同原告の事故前三か月間における一月当りの賃金は、基準内賃金として、基本給五万〇、三〇〇円、職務手当二、〇〇〇円、家族手当四、〇〇〇円、基準外賃金として、月平均四七・二時間の休日時間外手当一万五、八〇一円(単価三三五円)、一・三日の当日直手当一、〇六七円(単価八〇〇円)、以上合計七万三、一六八円であつたことが認められる。

したがつて、同原告が本件事故にあわなければ、従来の業務に従事して賃金を得ていたであろうと推認でき、右賃金収入については、同原告と同様原告会社に勤務する者で、原告山田と同程度の年令、能力等を有する者の実際の賃金の状況を調査することによつて、同原告の昇給率、賞与、時間外手当等を合理的に推認できるところ、前掲証拠及び証人宇野喜晴の証言により真正に成立したと認める甲第一二号証の三ないし六によれば、原告会社に勤務する者で原告山田と同程度の年令、能力等を有すると思われる吉岡克也について検討すると、同人は同原告より三歳年長で九か月早く入社し、昭和四六年五月から営業部に属し、昭和四七年六月から同原告の職務を引継ぎ、昭和四八年四月同原告に一年遅れて主任補に昇格、昭和四九年四月主任、昭和五〇年四月主査補に昇格しており、同原告は、同人よりも残業等が多く、勤務成績も良好で、昇給率もやや高目であつたことが認められる。

そこで、原告山田が本件事故にあつていなければ、同原告は、昭和四八年四月には主任、昭和四九年四月主査補、昭和五〇年主査に昇格したものと推認でき、前掲証拠によれば、基本給の昇給率、昇格手当、休日時間外手当及び当日直手当の単価、賞与の基本給に対する比率等を控え目にみて吉岡と同一条件とし、かつ、休日時間外時数、当日直日数を同原告の事故前三か月の平均値とし、その他の勤続手当、技能手当、住宅手当、家族手当、皆勤手当等を変更後の賃金規程により算出すると、別紙所得表のとおりとなる。

ところで、前掲各証拠及び成立に争いのない乙第一二号証を総合すると、原告山田は、昭和四七年四月六日から昭和五〇年八月三一日までの間において、昭和四七年九月一一日から同年一一月頃まで並びに昭和四八年六月初旬から同年七月九日まで一時出勤する等して、昭和四七年九月一一日から同年一〇月三〇日までの五〇日間と、昭和四八年六月一日から同年八月三一日までのうち八日間が出勤扱いとなつて、その間の休業補償給付金の停止手続がとられていることが認められる。したがつて、昭和四七年四月六日から昭和五〇年八月三一日までの休業損害は、右出勤中の賃金相当額を控除して別紙所得表をもとに算出すると、次のとおり六〇五万六、〇八六円となる。

昭和47年4月6日から昭和48年3月31日まで

8万8,232円賃金×{12-(20/30+30/31)9月分10月分}+19万9,892円賞与=111万4,469円

昭和48年4月1日から昭和49年3月31日まで

11万1,842円賃金×(12-8/30)6月分+33万7,586円賞与=164万9,865円

昭和49年4月1日から昭和50年3月31日まで

14万5,321円賃金×12+46万0,659円賞与=220万4,511円

昭和50年4月1日から同年8月31日まで

16万7,607円賃金×5+24万9,206円夏賞与=108万7,241円

合計 605万6,086円

(六)  逸失利益

原告山田の後遺症の程度、年齢、職業等の諸事情を考慮すると、同原告は、その労働能力の五六パーセントをその症状固定日の翌日である昭和五〇年九月一日から七年間喪失すると推定されるので、前記症状固定当時の月額一六万七、六〇七円の割合による賃金の他、景気等の諸事情により支給率に変動のある賞与については、控え目に見たとしても、少なくとも最も少ない時の昭和四七年度の賞与比率の二・二六月分と同率の割合で支給されるものと認められるので、以上を前記症状固定日現在の後遺症に基づく逸失利益の現価を、年五分の割合による中間利息を控除する年別ホフマン式計算法により算出すると次のとおり七八六万二、四一二円となる。

16万7,607円×(12+226)月×0.56×5.8743=786万2,412円

(七)  慰藉料

本件事故の態様、原告山田の傷害、後遺症の程度、入通院期間等、本件にあらわれた諸設の事情を考慮すると慰藉料は金六五〇万円をもつて相当であると認める。

(八)  総損害

右の(一)ないし(七)の各損害を合計すると二、〇九三万八、五六八円となるところ、前記甲第六号証の二、成立に争いのない乙第九号証、前掲乙第一二号証及び弁論の全趣旨によれば、同原告の治療費として、右(一)の金員の他に労災保険から二一八万四、五三四円(療養補償費)が、自賠責保険から三四万〇、四四〇円(昭和四七年四月八日から同年六月三〇日までの治療費)がそれぞれ各病院に支払われていることが認められ、結局、本件事故による総損害は二、一八九万〇、六八四円に右各金員を加えた二、三四六万三、五四二円となる。

六  公平の理念に基づく減額

前記認定にかかる原告山田の傷害の程度、病状の推移、後遺症の程度に、証人白方誠弥の証言を総合して勘案すれば、同原告の後遺症を含む病状は、本件事故による神経系統の症状が、これを原因として、環境因子等の変化に、同原告自身の体質、精神的あるいは心因的因子が加味されて、これを克服しきれずに、情動面の不安定やうつ的状態という精神系統の症状にまで発展したものであること、右の神経系統の症状が精神系統の症状にまで発展するか否かは、各個人のもつ精神的、心因的因子が複雑に関与し個人差が大きいことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

そこで、前記認定の病状の推移、後遺症の程度等にかんがみれば、同原告の右病状も本件事故が唯一の原因となつて発生したものとは認め難く、同原告自身の体質的・精神的・心因的因子等の要因も右発生に相当程度寄与しているものと推認することができる。

そして、このような場合には、同原告の右病状による損害の全部を本件事故による損害と認めるべきではなく、本件事故が右病状の発生に寄与している限度において相当因果関係が存するものとして、その限度で被告らに損害賠償責任を負担させるのが損害の公平な負担の理念に照らし相当というべきであり、以上に認定した諸事情を斟案すると、本件においては、前記認定にかかる同原告の病状による損害のうち八割を本件事故と相当因果関係のある損害と認むべきである。

従つて、右によれば、総損害額二、三四六万三、五四二円の八割に相当する一、八七七万〇、八三三円が本件事故による損害となる。

七  過失相殺

本件事故の発生については前記二認定のとおり原告山田の過失も競合しており、その過失割合は二割であるから、前記五の損害額一、八七七万〇、八三三円に〇・八を乗ずると過失相殺後の損害額は一、五〇一万六、六六六円となる。

八  損害填補

右のとおり、原告山田が被告らに請求しうる損害額は一、五〇一万六、六六六円となるところ、同原告が労災保険から休業補償名下に二〇五万八、〇〇〇円を受領したことは当事者間に争いがなく、前掲乙第九、一二号証によれば、右の他、同原告の治療費として労災保険から療養補償名下に二一八万四、五三四円、自賠責保険から三四万〇、四四〇円が各病院に支払われ、労災保険から障害年金九七万〇、七八五円、自賠責保険から一四万六、三七二円が同原告に支給されたことが認められ、更に同原告が原告会社から原告山田の最低生活の維持のために休業補償差額として一二七万七、〇三三円を支給されたことは同原告の自認するところであるので、右各填補額の合計六九七万七、一六四円を控除すると損害残額は八〇三万九、五〇二円となる。なお、障害年金については、右金額以上に支給されたことを認めるに足る証拠はない。

九  原告会社の損害

証人宇野喜晴の証言により真正に成立したと認める甲第一一号証の七、証人宇野喜晴の証言によれば、原告山田には労災保険から休業補償として平均賃金の六割相当額が支給されていたが、それだけでは原告山田の闘病生活の維持に不足するために、同原告の使用者である原告会社が被告らに代つて給与ないし休業補償差額名下に昭和四七年四月以降昭和五〇年八月まで合計一二七万七、〇三三円を立替払をしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

原告山田の使用者である原告会社は本来労働基準法により療養補償、休業補償等の支給をしなければならない義務があるが、本件においては、労働者災害補償保険法に基づいて右補償金が給付されており、原告会社は、右の補償の責を免れているのであるから、最早右弁済をなすにつき正当な利益を有していないことは被告ら主張のとおりである。しかし、原告会社の主張は第三者弁済による任意代位の主張をも含むものと解されるので、右について判断するに、弁論の全趣旨によれば、原告会社は、被告らのために(事務管理)第三者として原告山田に弁済し、被告らに対し右管理費用償還請求権を取得し、同時に債権者である原告山田の承諾を得てこれに代位したものであつて、原告山田は、右の事実について本訴状をもつて債務者である被告らに対し通知したものと認められる。なお、付言するに、本件のような場合、利害関係を有しない原告会社の右弁済が被告らの意思に反してなされたものともいえず、これを否定すべき特段の事情を認めるに足る証拠もない。

したがつて、右弁済は有効であり、原告会社は、原告山田への右弁済により債権者である原告山田に代位して、被告らに対し、一二七万七、〇三三円の損害賠償請求権を取得したと解するのが相当である。

一〇  弁護士費用

本件事案の難易、認容額、その他本件に現われた諸般の事情を考慮すると、弁護士費用として、原告山田につき金八〇万円、原告会社につき金一〇万円をもつて相当と認める。

一一  結論

以上の次第であるから、原告山田については右八の損害残額八〇三万九、五〇二円に右九の八〇万円を足した合計八八三万九、五〇二円が、原告会社については、右八の金額一二七万七、〇三三円に右一〇の一〇万円を足した一三七万七、〇三三円がそれぞれ被告ら各自に対し請求しうる金額である。

よつて、原告山田の本訴請求のうち、被告ら各自に対し損害賠償金八八三万九、五〇二円及び内金八〇三万九、五〇二円に対する不法行為の翌日である昭和四七年四月六日以降支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、原告会社の被告ら各自に対し、損害賠償金一三七万七、〇三三円及び内金一二七万七、〇三三円に対する代位弁済後の昭和五一年七月九日以降支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は理由があるから正当としてこれを認容することとして、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辰巳和男 安藤宗之 上原理子)

所得表

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別紙図面

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